小学校にあがる前に子どもに身につけてほしい
ひらがな/数字/時計 ジャンル別おすすめ知育玩具
幼児期の子どもを持つ保護者は、小学校入学前に「勉強の力」をそれなりに身につけてほしいと考えます。ただ、数多くの知育玩具を監修してきた無藤隆先生(白梅学園大学 名誉教授)は、まず前提として、ひらがなの読み書きや数の概念は小学校に入ってから初めて習うように学習指導要領が作られていることを理解してほしいと語ります。
一方で、小学校1年生のスタートラインで子どもに遅れを取らせたくないという保護者の気持ちもよくわかります。では実際に、幼稚園や保育園の時点で子どもたちはどの程度の「勉強の力」を身につけているのでしょうか。
小学校以前に習得してほしい読み書きなどの学習ポイント
① 勉強と構えずに知育玩具を通じて楽しみながら自然と学び得る
② 読み書きではなく語彙力、国語力をあげることが重要
③ 計算ではなく数と量への対応、数の仕組みを知ることが大事
④ 時計を読めるようになることよりも生活の中で使えることを重視する
年長児の約90%がひらがなと10までの数字が読める
年長児を対象にした学研教育総合研究所の調査(幼児白書Web版)によると、ひらがなの識字率は90%です。「あいうえお」などの清音よりも、「がぎぐげご」などの濁音を表す文字の方が、識字率が低い傾向にありました。
また、「せっけん」の「っ」など促音は特に難しく感じるようです。目安として、清音がだいたい読めれば小学校1年生のスタートラインで大きな遅れを取ることはないでしょう。
数字・数の識字率は、1~10までの数字が全部読める子が91%、12枚の整然と並んだカードをかぞえられる子が83%です。1~10までの数字が読めても、12枚のカードをかぞえられない子もいます。こちらも目安としては、1~10までの数字が読めれば特に問題はなさそうです。
「ひらがなや数字を覚えたり時計の読み方を学んだりするのに、知育玩具を使うのはとてもいいことだと思います」と無藤先生は推奨します。
知育玩具=勉強と結びつけずに楽しむことが大切
ただ、「子どもの勉強はとにかく先が長いですよ」と付け加えます。
「幼児期の子どもの勉強は大学受験ではありませんから、この半年で頑張って何とかなるというものではありません。これから小学校に入って、中学校や高校に行っても、勉強はずっと続きます。幼児期ですと勉強のドリルが大好きという子もいますが、小学生になるとほとんどの子が嫌がります。そういう意味では、小学校に入る前に『勉強はもうイヤだな』とならないようにしたいですね。基本は楽しむことが大事です。」
難しい入学試験があるような国立の附属小学校や私立の小学校では、入学した時点で子どもが勉強に疲れているケースもあるそうです。
「あまりに早くから勉強ばかりしていると、『文字も読めるし、計算もできるし、みんな知っているもん』となってしまい、小学校に入学してからは予習や復習の習慣が身に付かない子もいます。一方で、就学前に文字の読み書きや計算ができなくても、小学校に入ってから勉強の意欲にあふれて地道にコツコツとやっている子はぐんぐん伸びますよ」
したがって、知育玩具は勉強のために使うのではなく、楽しみながら遊んでいるうちに、気づいたら学びが得られるというのが理想です。
文字の読み書きではなく国語力を上げることが大事
遊びながら文字や言葉を自然と覚えられる
「たとえば文字を覚えるにしても、ひらがなの読み書きは小学1年生の1学期の話です。
本来の目的は国語力を上げることですから、知育玩具をきっかけにたくさんの言葉に触れたり、絵本を読み聞かせたりして語彙をどんどん豊かにしていくことのほうが大事です」
子どもは1歳半ばから2歳代前半で言葉を発するようになり、5歳になると数千語程度までに語彙数が増えていきます。
「その後も小学校や中学校に入ったら、語彙がどんどん増えていきますが、そこで増えるのは概念が難しい用語や抽象的な表現です。たとえば“内閣総理大臣”という言葉は概念が難しいですから、幼児期に覚えるのは難しいですよね。でも、日常的に生活している範囲の言葉は、5歳でほとんど身についており、普通に話が通じますよね」
そのくらいの年齢になると、多くの子は自分の考えていることを言葉でだいたい表現できるようになり、コミュニケーションがとてもスムーズになります。
「『お母さんは毎日、何をしているの?』と尋ねれば、『うちのお母さんは、朝、ぼくを保育園に送ってくれて、そのあとはお仕事に行くんだよ』とか、『帰りは5時くらいにお迎えに来てくれるけど、遅くなるときはお父さんが来るんだ』といった具合に、ちゃんと話しますよね。日本語として完成しているわけではありませんが、話し言葉としては割としっかりしてきます」
この事実は大人がもっと驚くべきことだと無藤先生は指摘します。
「大人が5歳の子どもと同じレベルで英語や中国語が話せたら、相当すごいことですが簡単には外国語を習得できません。もちろん、子どもには本能として言語能力があるからではありますが、だからといって自然と言葉が使えるようにはなりません。外部から言葉をたくさんインプットする必要があります。つまり、言葉に触れられる、語彙力を増やせる環境が大事ということです」
語彙を豊かにするために保護者ができること
日本語を覚えるには日常的に日本語を話す環境が必要で、いろんな場面で日本語に触れることで言葉が増えていき、話せるようになっていくわけです。そこに至るまでの道のりは個人差がありますが、元々の言語能力の差があると同時に、環境による差もかなり大きいそうです。
「家庭でのやりとりがどのくらいあるか、絵本をどのくらい読み聞かせてもらっているか、あるいは幼稚園や保育園での友だちとの言葉のやりとりなどによって、かなりの差が出てきます」
逆に言うと、元々の言語能力に差があっても、環境次第で子どもの国語力を大きく伸ばせる可能性があるということです。そのためには周囲の大人の接し方が大事になってきます。
「4~5歳くらいになると、『梅雨が明けたから暑いけどさわやかだね』とか、『蒸し暑いからジトジトしているね』とか、大人がいろんな言い回しをすると、子どもはすぐに覚えます。『暑い』という言葉を読んだり書いたりすることも大事ですが、そういうやりとりを通じて語彙をどんどん豊かにしていくことができます」
語彙を豊かにする方法の一つとして、昔ながらの“しりとり”や“なぞなぞ”といった言葉遊びも重要な役割を果たします。
「しりとりは、たとえば『つくえ』という言葉が出てきたら、『つ』と『く』と『え』に分解しなければなりません。なぞなぞであれば、『パンはパンでも台所用品で食べられないパンは何?』『こたえは、フライパン!』という具合に、調理用具としての意味ではなく、音を取り出してまったく違う意味として捉えます。そういった言葉の操作ができるようになると、語彙が一気に広がります」
言葉の読み書きを表面的に覚えるだけでなく、言葉の仕組みをすることで、適切に使いこなす能力を身につけることができます。
計算だけでなく数と量に対応できることが大事
数の概念が身につく「Disney Tinker Kidかずのきほん バランスシーソー」
中に入っている「かずのしくみカード」で算数の基礎も学べる
数に関しても、数字の読み書きや計算を覚えるより、数の仕組みを理解することのほうが大事だと無藤先生は言います。
「数字をかぞえることは、大人が思うよりも、子どもにとって簡単なことではありません。面白いのは、3~4歳くらいになると子どもはいろんな物をかぞえ始めますが、ある物はかぞえて別の物はかぞえない時期があります。たとえば、おはじきは数えるけど、紙は平たいから数えられないとか、人間は数えるけど、自動車は大きいから数えられないとか、このように考えることがあります」
こういった時期があるのは、どんな物でもかぞえられるようになるためには、かぞえる対象を抽象化する能力が必要だからです。抽象化とは、対象から注目すべき要素を重点的に抜き出すことです。その能力が2~3歳では身についていませんが、4~5歳になると次第に身につくので、数の対応に大きな変化が表われます。
「おはじきは1個、2個とかぞえますけど、紙は1枚、2枚とかぞえますよね。人間は1人、2人で、自動車は1台、2台とかぞえます。その言葉の使い分けも難しいですが、どれも同じように『1』、『2』とかぞえられるのは抽象化できているからです。これが数を理解する一番の基本です。それがわかってくると『3から1増えたら4だよ』といった具合に、数の増減への対応ができるようになります。その中に足し算、引き算の要素が入っているわけです」
そういった基本を理解しないまま、「4+3=7」という計算式だけを覚えても、学びは広がりません。知育玩具であれば、実際に物を触りながら動かすことで数の仕組みを体感することができます。
「たとえば11個のおはじきを一列に並べたとき、右からかぞえても左からかぞえても同じであることを理解するのは、4歳くらいまでの子どもには難しいです。でも、5歳の子だと『どっちから数えても同じに決まっているのに、なんでそんなことやらせるんだよ』みたいな反応になります」
これは4歳と5歳で数の対応が変わる一例です。
「別の例で言いますと、トランプの神経衰弱のようにたくさんカードを集めた人が勝ちみたいな遊びをイメージしてみてください。最後に枚数を数えて勝ち負けを決めますよね。でもその際、枚数を数えなくても束にしたカードの厚みを比べても判断がつきます。このように数えることと量として捉えることがやり方は違っても、結果は一致するといった経験は数量感覚の中核になることなのです」
こちらは量の対応が変わる一例です。
「つまり、算数で重要なのは計算だけではなく、その背景にあるいろんな仕組みを理解するということ。それが先々、小学3年生以降に習う文章問題や応用問題への取り組み方に関わってくるのです」
計算の答えが分かればいいわけではなく、その計算がどういう仕組みで成り立っているのかを理解するための数と量の対応力を身につけることが大事なのです。
時計が読めるだけでなく生活の中で使えることが大事
針を動かすと文字盤が変わり、時計の読み方が身につく
「Disney Tinker Kidくるくるとけい」
言葉や数と同様に、時計に関しても時刻の読み書きを覚えるだけでなく、実際に生活の中で使えるようになることが大切です。
「ほとんどの園や小学校では昔ながらの円形の1から12の数字と短針・長針による表示の時計が使われています。それは針の形で時間が示しやすいからです」
子どもがアナログ時計とデジタル時計に接しているときの反応を見比べると、アナログ時計のほうが明らかに幼いうちから時計の仕組みを理解できていることが多いとのこと。
それでも長針が「1」を指したら5分で、「2」を指したら10分であることを理解するまでには時間がかかります。最初のうちは「長い針が『1』になるまで遊ぼうね」といったやりとりで問題ありませんが、どこかのタイミングで長針が「1」のときに「5分」と読むことを覚える必要がでてきます。
「くるくるとけい」は長針が「1」を指したときに数字部分がクルッと回転して「5」を示すようになっています。楽しみながら時計の仕組みを理解することができ、読み方を自然に覚えることができます。
また、長針の読み方が分かるようになっても、60秒が1分、60分が1時間、24時間が1日という単位で時計が進んでいくのを理解すること自体は子どもにとって難しいことです。
まずはぴったりの時間(1時間)と半分の時間(30分)を生活の中に取り入れると、時計の読み方が感覚的に理解しやすくなります。「朝7時ぴったりに起きてみようか」などの声かけから始め、おやつの時間やごはんの時間などで時計に触れる機会を少しずつ増やしていくと、生活の中で時計を読む習慣がつきます。
ひらがなも数字も時計も、小学校入学前だから身につけるというのではなく、一生続いていく学びのワンステップとして、知育玩具を上手く使い楽しみながら仕組みを子どもに理解させ、自然と身につかせるのが理想です。
©︎ Disney
©︎ Disney. Based on the ”Winnie the Pooh” works by A.A. Milne and E.H. Shepard.
©︎ Disney / Pixar
監修者プロフィール
無藤 隆 先生
白梅学園大学 名誉教授
東京大学大学院教育学研究科修了。お茶の水女子大学生活科学部教授などを経て、2004年、白梅学園短期大学学長に就任、翌年より2007年まで同大学学長を務める。2017年より現職。教育学のなかでも保育関連や心理学系統を専門とし、保育・幼児教育に関する政府審議会・調査研究会などの座長として公的活動にも尽力する。